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オフィス縮退、あるいはアンケートの作り方

この記事が出た夜、たまたま田中さんと晩御飯を食べる機会があった。どうやら田中さんと「会う」のは6か月ぶりのようだった。自然に話題は記事の話になった。記事を読むと田中さんは、最上階を手放すことに未練はないように見えるが、ホントのところどうなんですかと聞いてみると、ちょっと残念、という様子だった。ではなぜああいう結論に至ったのかというと、よく言えばきちんと権限を譲渡して任せた結果だ。眺めのよい部屋にこだわってもよいことはないでしょうという意見に合理的な反論ができなかったということだ。だがこの結論に至るまでの流れについては個人的に思うことがあるので、ここにメモしておきたい。

記事の中で触れられている6月に行われたアンケートは、自分も回答したのでよく覚えている。背景としては、ほとんどだれも出社していないオフィスを、今後どのようにしていくべきか問われている状況下で、あなたはどう思いますかというアンケートだった。これには「新しい働き方」という前提が示されており、それを踏まえてオフィスをどうしていくべきかを問うアンケートだ。だが質問項目を見た瞬間に、これはオフィスを縮小するという結論になるだろうなと予想ができた。というのは質問項目の曖昧さに対して、回答の選択肢があまりにも狭かったからだ。

記事でも言及されている「80%以上が、希望する出社頻度は『週1回以下』と回答」なのだが、この設問の選択肢はこんな感じだった。

  1. 毎日
  2. 週に3回
  3. 週に1回
  4. 隔週に1回
  5. 月に1回
  6. 四半期に1回
  7. 半年に1回
  8. 年に1回
  9. 行く必要はない
  10. よくわからない

さて、この選択肢のなかから1つ選ぶとしたらどうだろう。コロナ禍のもとで、2020年6月初旬という時期に選ぶとしたら? 非常事態宣言は解除になったがその後どうなるかは分からない。満員電車に揺られて出社してきて、万が一感染するようなリスクを冒してまで出社する価値と、何を比較したらいいのか分からない状況で、どれを選ぶべきか? 答えはおのずとわかるではないか。そういうわけで、結果は予想通りになった。

自分はアンケートが作為的に作られたと言いたいわけではない。アンケートそのものは、社員の意見を引き出そうとして真摯に作られたものなんだろうと想像している。しかし「80%以上が、希望する出社頻度は『週1回以下』と回答」した結果を見て「リモートワークは深く浸透した」と結論するのはどうなんだろう、と思っている。だがそれも一つの判断なので従うしかないのだろうなと考えている。どのみち、2020年10月になろうとしている現在も、ほとんどだれも出社しようとしない状況は変わらないからだ。アンケートというのは使い方が肝心だ。多数がそう言っている、という使い方をするとこういう結果になるということをメモしておきたくて、この記事を書いた。

自分なら「出社しない理由は何ですか?」という質問にしただろう。それは感染症に対する恐怖なのか? それとは無関係に出社しないで仕事をしたいという要望なのか? 多様な社会では多様な社員がいて、多様な理由があるはずだ。これを探るために設問は慎重に設計するだろう。そのうえで結果をどう解釈するかで悩むことになるだろうな、と想像する。他には「どのようにすれば/どのような状況になれば出社できると思いますか?」とか「出社しないで仕事をするために何が必要ですか? 何をすればよいですか?」という質問をするだろう。とにかくコロナ禍における出社に対する考え方と、新しい働き方に対する出社に関する態度を分離して考えるように設計する。さもないとコロナ関連の問題が大きなバイアスになって、「出社しない」という意見から「オフィスはいらない」という結論は不可避になる。「オフィスはいらない」という結論は「新しい働き方」の議論の結果から導出されても構わないのだが、その理由とそこへ至る道筋がコロナ禍とゴッチャになっているのはたまらないのだ。

だがまあ、この辺の話は全部終わったことなので、もしまた似たような話があったら参考にしてもらえればと思う。

皮肉なのは、オフィス縮退が決定されたのはいいが、私物を片付けるのに与えられた猶予期間はなんと3週間、14営業日しかなく、おかげでみんな大慌てで出社しているという状況だ。皆出社したくないのに、私物を廃棄されたくないので出社せざるを得ないのだ。とはいえ私物をダンボールに詰めに出社してみると、オフィスで見かける社員はせいぜい10名ほどなので、困った(困らない?)話である。

こうして大急ぎで決まったオフィス縮退ではあるのだが、自分はそれほど悲観しているわけではない。「新しい働き方」は現在検討中で、具体的にどのようになるのかはまだ未定だ。さくらのいいところは流動性が高いという点で、もし「やっぱりオフィスは必要だ」という結論に至れば改めてそれを確保しようとするだろうと大いに期待できる。なのでまあ、それまでの間は自宅で引きこもっていようと思っている次第である。

2009年4月、内覧のときのスナップ