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現用ボーダールータを(社長が)ふっとばした話

はっきり覚えていないのだが、たぶん20年前のことだと思う。S・アール・エスとIフォレストが協業を始め、Sくらインターネットができた直後ぐらいの話だ。

土曜日だったか、日曜日だったか、夜に車を運転していたら、T中さんから電話がかかってきた。ケイタイを取ったとき、T中さんの声は明らかに動揺していた。

「わ、わしKさん、実は大手町のルータを落としてしまいまして」
「ええっ?」

聞いてみると、なにやら設定を書き換えてwriteしたのだが、それっきり接続が切れて戻ってこなくなったというのだ。

写真はイメージです(実物)

現在のSくらの運用規定からいったら、こんなカジュアルなメンテナンス作業そのものが重大な違反だが、駆け出しのベンチャーだった当時は割によくある話だった。当時のSくらの規模は、ラック総数は100にも満たないし、装置の構成も頭の中に全部入る程度だった。東京のネットワークは自分が、大阪のネットワークはT中さんが担当ということになっていて、普段のメンテナンス業務と障害対応はそれぞれが分担して行っているが、ときどき双方のコアルータのメンテナンスを勝手にやるぐらいのことは、お互いの信頼と空気感でやっていた。特に仕事の虫のT中さんが、休日の夜に一人でメンテをすること自体は特にめずらしいことではない。だが、大手町にあるボーダールータをダウンさせるとなると一大事だ。

「configをwriteしちゃったんですよね、ということはリブート依頼では復帰しませんね…」
「そうなんですよ、なんで申し訳ないんですけれど、現地へ行って作業してもらえませんか」

まあそういうことはときどきあった。自分も大阪のDNSサーバを落としてしまい、当時のS田社長を現地へ急行させたことがある。

「それはOKなんですが、実はいま厚木にいてですね、いつも渋滞してるから、こっから大手町だと2時間ぐらいかかりそうですね…」
「そっ、それはまずいですね…」

車を道路の脇に止めて、何かうまい手がないか一緒に考え始めたが、そもそもネットワークに繋がらない状態になったルータをリモートで何とかする手段などない。現状は、ボーダーの2台のルータのうち1台を落としてしまった状況なのでネットワークの全断は免れたが、これから夜のアクセスピークに向けてトラフィックが増えると、帯域が不足して大変なことになる。それまでに復帰させなければならないが、2時間かかっていては間に合わない。

「あ、そういやT中さん、トンネルルータのためのPC置きましたよね」
「ええ、ありますね」
「そのPCには、別経路でつながりますよね、telnetで」
「ええ、はい」
「そのシリアルポートが、落ちたルータのコンソールに繋がってます。tipで繋げられると思います」

当時、大阪と東京の間には専用回線がなく、この間でBGPを張るための実験をするためにPCで作ったトンネル装置を置いていた。PCはNLXケースで、そもそもトンネルを張るソフト自体がT中さん自作、大阪から送られてきたPCを設置したのは自分だった。これを置いてきたとき、シリアルポートが空いていたので、気まぐれでルータのコンソールポートに繋いでおいたのだ。tipを使ってログインできることだけは自分で試したので分かっていた。ちなみにこのことは、社内のドキュメントには書いていなかった。

「というわけなんで、トンネルPCにログインしてtipコマンドを使えばいいんですが、どうですか?」
「ああっ、ログインできました! ありがとうございます」
「じゃあ後は復帰できそうですかね」
「はい大丈夫です」
「よかったー、じゃあよろしく」

というわけで、社長がボーダールータを吹っ飛ばした話でした。

まあ自分の話は恥ずかしくてよう書かんですよね。