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片頭痛に悩む人のためのガイド

おばあちゃん(父方の祖母)の思い出と言えば、いつもアイスノン(いまちょっとググってみたら、今もまだ売ってるんだ! 驚いた)を鉢巻き代わりに巻いていた姿だ。それぐらいおばあちゃんは筋金入りの片頭痛持ちだった。その血を継いだ親父は7人兄弟だったのだが、親父も含めて親戚中が片頭痛持ちだらけだった。自分も中学生ぐらいから始まって、今までずっと片頭痛に悩まされ続けている。

片頭痛とは

片頭痛は、ときどき偏頭痛と書くこともあるが、主に頭の片側、特に右か左のこめかみあたりに発生しがちな、特徴的な痛みのある頭痛を言う。よく言うのは、脈拍にあわせてズキンズキンと痛むという表現だ。だがこれには個人差があって、必ずしも片側だけということはないし、必ずしもこめかみが痛むわけでもない。

片頭痛は、脈拍に合わせて痛むため、動きたくない、できればじっとしていたいという気持ちが大きくなる。鼓動を大きくすると頭痛もひどくなるからだ。どれぐらい安静にしていないといけないかというと、うっかり寝返りを打つとひどくなるとか、腕を上げるとひどくなるとか、そんなレベルだ。

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片頭痛は、光や音に対して敏感になる。臭いに対しても同様に敏感になることがある。なので、静かで暗くて、何もない部屋(自分の寝室が最高だが、あまり贅沢は言わない)で静かに横になっていることが望ましい。片頭痛持ちは、たいてい遮光率100%以上のカーテンを買っている。防音も重要なポイントで、冷蔵庫のモーター音ですら気になって眠れないこともある。臭いも重要で、ゴミ箱にはフタが欠かせない。

片頭痛は、一度発症すると治まるのに時間がかかる。頭痛薬にはいろいろあるが(後述する)、効き始めるまでには安静が必要だ。また一定の段階まで進んでしまうと、後に戻れない(簡単に治らない)という問題がある。

片頭痛は様々なきっかけで発症する。よくあるのがまぶしい光だ。日光やスポットライト、輝度の高すぎるディスプレイ、フラッシュなどがよくない。日当たりのよい場所で本を開いて頭痛を誘発してしまったこともある。人によっては、空腹感、血糖値が低すぎるとだめ、過度のストレス、というのもある。自分の場合、運動がNGで、脈拍を一定以上上げると頭痛が始まる。頭に血を登らせるのがとにかくよくない。逆立ちなどもってのほかだし、靴の紐を結ぶとかゴミを拾おうとしてかがむのもあぶない。睡眠も非常に重要な要素だ。睡眠不足はもちろんだが、過剰なのもよろしくない。眠り過ぎるとかえってよくないのだ。食べ物にも気をつかう。個人差が大きいが、NGな食べ物があるという片頭痛持ちは多い。自分はアルコールとある種のアルカロイド(ポリフェノール)がだめだ。たとえばティラミス(洋酒とチョコレートを含有)なんてのが最悪の組み合わせになる。また片頭痛持ちでよくあるのが、気圧の変化に弱い人だ。自分はまったく平気なのだが、雨が降るとか、前線が近づいてくると頭が痛むという人はよくいる。

片頭痛には予兆がある。有名なのは閃輝暗点だ。ただしこれには個人差があって、必ず起こる人と、ときどき起こる人と、滅多に、あるいは全然起こらない人がいる。自分は40年ほどのうちに5回しか発生していない。見え方にも色々あって、歯車のようなギザギザが見えたりする人もいるらしい。自分は視界がグレイアウトしてしまうタイプで、目が見えなくなったのかとパニックになったり、モニタが壊れて文字が表示できなくなったのかと驚いたりすることになる。他にも、頭が重かったり(頭痛とは違う)、いろいろな予兆がある。予兆なしに、突然ピークの頭痛に襲われることもある。

手元にある、興和が出している片頭痛ガイドによると、1997年の日本全国調査で15歳以上の国民の8.4%に片頭痛があるという。自分が通うクリニックの先生に聞いてみたところ、この調査は電話で行ったn=1000ぐらいの結果だから、IT業界にいるあなたはだいぶ印象が違うんじゃないか、と言われた。たしかに現在の職場で感じるところでは、もっと多いんじゃないかという気がしている。本稿を書こうと決心したのは、それが理由だ。

片頭痛とどう付き合うか

自分は病院嫌いで、長いこと頭痛で病院にかかることはなかった。片頭痛については、家系的なものだし、親父もアスピリンを飲んで寝てるだけだったし、他にやりようはないんだろうと思って、ずっとほっといていた。自分はイブプロフェンとかロキソニンが効かず(飲むと吐き気がひどくなる)、アスピリンを連用していた。しかし20年以上使っていたせいで薬剤耐性が付いていて、末期には1回で3錠飲んでも効いているのかどうかよく分からない感じになっていた。ひどい頭痛になってしまうと、まる一日寝込むしかないような感じだったのだ。

ところが12年ほど前、仕事で一緒になった韓国人と話をしていたとき、何気なく片頭痛のことについて話をしていたら、彼女がこういうのだ。

「ええ? 最近は片頭痛によく効く薬があるでしょ?」
「え、そんなのあるんですか」
「ありますよ、韓国だったら病院で処方してもらえます。日本にもあるでしょう?」

それならば、と一念発起して病院へ行ってみた。そこで処方してもらったのがトリプタン系の薬だった。

頭痛外来(脳神経外科)の様子

もしあなたが頭痛に悩んでいるとして、これから病院に行くとしたら、どうしたらいいかをまとめておこう。

最近は頭痛外来というのが整備されてきている。頭痛に悩んでいる人向けに、分かりやすい窓口ができているのだ。大抵は脳神経外科の一部になっていると思う。片頭痛持ちならば、今後長い付き合いになると思われるので、職場か自宅、どちらかの近くで探すことをお勧めする。もし近所に頭痛外来を持つクリニックがない場合、脳神経外科で頭痛を担当する医師がいないかを、電話で確認してみよう。なお、頭痛外来で大病院(大学病院とか)を受けると、毎月通うのが非常に面倒になるのでやめた方がいい。どうせ検査の時に紹介状を書いてもらえるので、近所の小さなクリニックにかかるのがよい。

まずクリニックへ行ったら、症状について説明することになる。ここでは簡単なアンケートが用意されているはずだ(ない、となると、他所へ行った方がいいかも)。事前に用意するとしたら以下の項目だ。

  • 頭痛の頻度。月に何回、1度に何時間続くか、数時間から何日間か
  • 痛みの具合。ズッシリ、ズキンズキン、ガンガンなど
  • 痛みの場所。頭のどこか、いつも決まった場所か、異なるか
  • 動作。痛いときは動けるか、動けないか、かがんだとき、横になったとき、など
  • 吐き気や鼻水、音や光に敏感になるか、臭いは気になるか
  • 肩こりや首の痛みはあるか
  • 仕事は忙しいか、ストレスはあるか
  • 頭痛が起きたらどうしているか

もしよければ、片頭痛日記を付けるとよい。クリニックに行くと紙の頭痛日記を配布しているが、今どきならばスマホアプリがある。自分はAndroidアプリを使っている(iPhoneは知らないが、たぶんあるだろう)。

クリニックでは片頭痛の診断のためにスクリーニングをする。大抵は脳梗塞などがないかをチェックするためにMRIにかける。ここで、小さなクリニックだと他の病院へ紹介状をくれるだろうが、面倒がらずに行った方がいい(1度きりで済む)。そして大半の人は、何もないキレイな脳ですね、で返されるはずだ(何か別の要因が見つかったら、事前に見つかってよかったねということだ)。ちなみに自分は、MRIのほかに電話帳ほどの分厚い脳波計も取られたが、特に何も見つからなかった。他の頭痛要因がないとなって、片頭痛だねという診断になる。

片頭痛の診断が下ると、トリプタン系の薬が処方される。症状に応じて、また本人の希望に応じて、いろいろな薬が選べる。

  • 速く効くが(30分程度)、効果時間が短いタイプ(8時間程度)
  • 効き始めは若干遅いが(2時間程度)、効果時間が長いタイプ(24時間)

薬には、飲み薬のほか、鼻から入れるタイプもあったりする。使いやすさや効き目などで、個人差や好みがあるので、医師と相談していろいろ試してみてもらいたい。自分も3種類ぐらい試しているのだが、結局マクサルトに戻ってきてしまう。

痛み止めと、片頭痛に直接作用する薬

アスピリンやロキソニンのような市販の痛み止めは手軽に手に入る頭痛薬だが、これらは汎用の鎮痛剤であって、片頭痛のためにデザインされているわけではない。またその効果や容量も市販薬として抑えられていて、症状に合わせて十分とは言えない。そのため効果は必ずしも満足できるレベルではない。

トリプタン系の薬剤(種類がたくさんある)は、片頭痛の発生源に対して効果を発揮するように作られている。本稿はいわゆる健康に関するブログではないので具体的な内容は説明しないが、トリプタン系の薬が一般の鎮痛剤とは違うということだけは申し上げておく。これらの薬は片頭痛の原因に対して作用し、その結果として頭痛を治す。ただし、これは頭痛(痛み)に対する治療であって、片頭痛の根本を治療しているわけではない。効果的に鎮痛してくれるというものなのだ。自分が現在使っているのはマクサルトだが、これは30分程度ですぐに効き始める。30分が「すぐ」というのは主観的だが、これまでまる一日寝込んでいたことを思えば非常に短い時間だと言えよう。

さてトリプタン系の薬はすばらしいのだが、欠点もある。第一に、これは予防的には使えない。頭痛が起こる前に飲んでも、それを無くすことができないのだ。

第二に、頭痛がひどくなりすぎると効果が発揮できなくなってしまう。頭痛は、時間の経過とともに痛みがひどくなり、また徐々に薄れていく(下図の赤い線)。トリプタン系の薬は、このグラフの立ち上がりのところで飲まないと効果を発揮しない。ピークに近いところで飲んでも、効果を発揮したとしても頭痛を和らげる効果は薄らいでしまうのだ(もちろん飲まないよりは幾分マシだが)。

投与のタイミングと効果の関係

そういうわけで、トリプタン系の薬は飲み方が非常に難しい薬である。というのは頭痛の痛みというのは常にきれいな曲線というわけではなく、頭痛の痛みというのは常に一定の立ち上がりというわけでもないからだ。急に上がってくることもあれば、じわじわと長い時間に渡って続くこともあり、いつ頃が飲み時なのか、予想するのが結構難しい。後述する予防薬の効果もあって、痛みがぼんやりとしてピークがずれたりすることもあって、痛みを抑える薬が使いづらくなったりすることもある。

これに慣れるためには、やはり自分の頭痛のパターンを知ることだ。そのためには頭痛日記を付けることが一番よい。すでに紹介した通り、スマホアプリが便利なのでそれをオススメする。

予防薬とクリニックとの付き合い

このようにトリプタン系の薬は効き目がよいが、処方薬というのが難点だ。そのため、定期的にクリニックに通い、処方を受ける必要がある。一定の副作用もあるので、健康状態のチェックも欠かさず受けた方がよい(まあ頭痛に比べたら些細な問題だ)。このため、クリニックを選ぶにあたっては、通いやすさを重視した方がよい。相談しやすい気やすい医師で、予約が取りやすく、家の近所というのがオススメだ。

トリプタン系薬剤は鎮痛剤だが、予防についてはどうか。これについても医師と相談してほしいが、参考として自分が処方を受けている薬について書いておく。

片頭痛の予防薬としては、セレニカやトピナという名称の薬が認可されていて、これらが処方される。予防薬は、頭痛に対する感度を下げるように作用する。より詳しく言うと、多少の痛みがあっても耐えられるように感受性の下限を上げるタイプと、頭痛のピークに対して感受性の上限を下げるタイプの予防薬がある(意味不明に聞こえると思うが、ようするに医師から説明を聞いてほしいということだ)。他にも様々な種類の薬があるが、合う/合わないがあるので、結局は医師と相談の上で試してもらうしかない。

片頭痛持ちが身近にいる人に一言

調査結果をひっくりかえすと、世の中の80%以上の人は頭痛とは無縁の生活を送っているということになる。実のところそれがどんな生活なのか、自分には全く想像がつかない。きっとそれはすばらしい世界なんだろうなと思う。そういうすばらしい人たちに、ひとつお願いがある。

頭痛というのは、骨折と同じで、物理的な痛みだ。だが頭痛は目に見えないので、それを「心理的な問題だ」と誤解する人が一定の割合で現れる。まあ心の中でどう思おうと勝手だが、そのことは、どうか口に出して言わないでほしい。たとえば自分の部下が頭痛で病欠したら、気合が足りないなんて口が裂けても言ってはいけない。頭痛は気の持ちようで軽くなったり、消えたりしない。それは気合で骨折が治ったり、切り傷から流れる血が止まったりしないのと同じだ。頭痛は現実に存在し感知される痛みであって、心理作用で生み出される幻想ではない。心をどんなに鍛えても、痛みは少しも減らないのだ。

なので頭痛で苦しんでいる人に対しては、怪我人と同じようにいたわってやっていただきたい。どうすればよいのか分からないなら、せめて安置しておいてあげてほしい。心無い言葉を投げかけるぐらいなら、結局、何もしないでおくのがもっともよい処置なのである。

参考リンク