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やりたいこととやるべきことの峻別

まつもとりーさんがこんなブログを書いた。

この中で、研究所での取り組みをもっと紹介していこう、という話がでてくる。となれば自分も書かねば、ということで「やりたいこと」の話を取り上げてみたい。

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「面白いと思うテーマにどしどし取り組んでいく」というモットー

研究所は研究をする部門なわけだが、良い研究をしてもらうにはどうするべきか? あれこれ指図するのはよくない。そもそも、何をすべきか判っているのなら、最初から事業としてやればいいのであって、わざわざメンバーを募って研究してもらう意味がない。未知の分野で知恵を絞ってもらうのだから、可能な限り自由にやってもらえるように環境を整えて、あとはドキドキしながら待つしかない。どこまで自由を提供できるか、これが研究所の存在意義だ。

取り組むテーマも、できれば自分で好きなものを選んでもらった方がいい。今はこれが流行しているから、などといってそれを追いかけるようでは遅い。そもそも、インターネットの分野で5年後10年後を正確に言い当てられる人は非常に少ない。だいたい、誰が正しいのか、何が間違っているのか、近い未来に何が起こるのかを、現在において判断できるわけがない。それを、今、決めつけるのはよくない。そういうことならばとるべき態度は、選んだテーマが5年後に当たったら「やったぜ、選んで正解だったね」と喜ぶようにし、外れだったら「残念、でも参考になったね」「いろいろあったけど面白かったね」「結果はいまいちだったけど、間違いだったという知見は得られたんだし」「失敗も経験だよね」と満足することではないか。

だからこそ「面白いと思うテーマにどしどし取り組んでいく」というモットーこそがさくらインターネット研究所で一番重要だと考えている。どうせやるなら、面白いと思うことに取り組んでもらいたいと考えるのだ。

「やりたいこと」と「やるべきこと」が混ざっていないか

ところで、研究とか開発とか、仕事を進めていると、よく「やるべきこと」が出てくる。これが結構曲者で、これを片付けないと先に進めないということがよくある。「やりたいこと」を達成するために「やるべきこと」を片付けるのはまあいい。「やるべきこと」をやるのが楽しいのも、まあ結構だ。だが、これが混ざって、いつのまにか「やりたいこと」が「やるべきこと」になっていたり、優先順位が逆転してしまっていることがある。あるいは「やりたいこと」のために我慢して「やるべきこと」をやらざるを得ない、なんて考えの人もいる。

研究所のメンバーが僕のところにきて、なんか困り顔で「これをやりたいんです」と言ってくることがある。自分に許可を求めてくるときは、大抵予算がらみの時なので、そんなとき自分は「それ本当にやりたいの?」と聞くようにしている。

「やらずに済ますいい方法ないの?」
「なんか、義理で頼まれただけなんじゃないの? 断れるんだったら断ったら?」
「面倒だったら僕が断ってやってもいいよ?」
「所長に『許可しない』って言われちゃいました、すみません、とかさあ」
「なんか言い訳一緒に考えようよ」

とか言っちゃうのだ。

だが、時々「心の底から本当にやりたいのだけど、こんなワガママを言ったら所長に怒られるんじゃないか」と思って困り顔になっているメンバーがいたりするので、見分けるのが難しい。なんで、「やりたいです」「じゃあやりましょう」ってことになるのだ。

たぶん、もうちょっと慣れてきたら「やることに決めたんで、よろしく」と言うようになるだろう。実際、そこまで慣れている人は、もういる。

「やるべきこと」はハックする

それでもやらないといけないこと、というのは必ずある。面倒だがどうしてもやり通さないといけないこと、避けて通れないことは残ってしまう。それをやらないで逃げるわけにはいかない。だが、そこをいかに楽してやるか、がある意味腕の見せ所ではないかと思うわけだ。こういうところをハックしないで、プログラマとかコンピュータ・サイエンティストをやっている意味はないんじゃないかなと思う。

ハックといっても、そんな大げさな話ではない。小さな工夫とか、人に頼んじゃうとか、買ってきて済ますとか、そういうようなことでもいいのだが、とにかく楽をして終わらせるというようなことだ。あるいは「自分は面倒に感じるが、それを喜んでやってくれる別の人に頼む」というのもある。チームで仕事をすることのすばらしさがこれだ。意外に、同じ仕事でも嫌いな人もいれば好きな人もいる。そういうのを融通すると、物事がスムーズに回る。

「やりたいこと」に集中する

そうしてやりたいこととやるべきことを峻別していくと何が残るだろうか。本当にやりたいことが残っていればハッピーだ。だが、なんでも自由にやれます、というのは実は非常に難しい。世の中には、「好きなことをやれ」と言われると困ってしまって何もできなくなるというタイプの人もいる。こういうことには向き不向きがあるので、誰かれなく「自由にやりなよ」というのは、本当はあぶない。

ただもし、やりたいことがあって、それに取り組む意欲があるなら、それは自由にやれるようにしたい。さくらインターネット研究所の「やりたいこと」は、だいたいこんな感じでできている。